地震が多発する日本で安心して暮らすためには、住まいの耐震性能が大切です。耐震性能が低い住まいは、リノベーションを機会に耐震補強を実施したほうが良いかもしれません。この記事では耐震診断や耐震補強の費用相場、補助金制度、地震に弱い家の特徴などを解説します。
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リノベーションの規模について、どこまでが“小規模”でどこからが“大規模”なのかはっきりとした定義はありませんが、工事の範囲により3つに分けて解説します。
「クロスやフローリングを張り替える」、「トイレの一新(便器入れ替えおよびクロス・床材の張り替え)」、「キッチンの一新(位置を変えずに新しい設備に入れ替える)」など、特定の箇所に工事の範囲を絞ったリノベーションです。工事期間は1〜3日程度となり、原則手的に仮住まいする必要はありません。
「キッチンのレイアウト変更(例:独立タイプから対面タイプへ)」、「子ども部屋に間仕切りを設けて2室に分ける」など、比較的簡易な間取り変更を伴うリノベーションです。工事期間はプランの内容や範囲により大きく異なりますが、1週間〜1ヶ月程度となります。
住みながらの工事も可能ですが、設備が使えない期間、作業員の出入り、工事にともなう大きな音などが生じるため、条件によっては仮住まいを検討したほうが良いかもしれません。
住まい全体に手を入れるリノベーションです。間取りの大幅な変更や水回りの移動も可能で、新築同様に刷新することができます。なかでも、建物の構造以外を解体して、一旦箱のような状態にしてから行う手法をスケルトンリフォーム(スケルトンリノベーション)といい、一戸建てであれば耐震補強工事を施す機会でもあります。
この規模では住みながらの施工はできず、仮住まいが必須になります。仮住まいに持ち物が入り切らない場合は、貸倉庫やトランクルームなどの契約も必要です。
壁や床を取り払う大規模リノベーションは、戸建ての耐震補強工事を行う絶好のチャンスです。なお、マンションにおける耐震補強は共用部分に手を入れることになるため、耐震リノベーションを個人単位で行うことはできません。建物全体の大規模修繕の一環として行うことになります。
日本は世界でも有数の地震が多い国です。政府の想定によると、南海トラフ巨大地震や首都直下地震が起きる確率は今後30年以内に70%だといいます。いつ地震が来てもおかしくない、そんな国で安心して暮らすためには、住まいの耐震性向上は欠かせません。自身や家族の命を守るために、大きな揺れでも倒壊しない住宅にしましょう。
耐震補強リノベーションを実施するとき、一定の要件を満たす場合は、所得税および固定資産税の減税措置を受けることができます。2つの減税制度は併用することも可能です。
下記に当てはまる住宅は耐震性能が低い傾向があるため、耐震補強リノベーションの実施が必要な可能性があります。
1981年より前に建築された住宅は、現行の耐震基準を満たしていない「旧耐震基準」の可能性があります。旧耐震基準については次の章で詳しく解説していきますのでご確認ください。
開口部(窓)が多い家や、ピロティ構造の家は壁の面積が少ないため耐震性が低い傾向があります。ピロティとは「杭」を意味し、1階部分の全体あるいは一部に壁がなく、柱で支えられている構造のこと。1階部分が駐車場やエントランスホールなどのスペースとして活用されている事が多いです。
「湿気が多い環境で構造が傷んでいる」、「軟弱地盤の上に建っている」、「シロアリ被害を受けている」など…築年数に関わらず経年劣化が進んでいる住宅は本来の耐震基準を満たせなくなっている可能性があります。「人が室内を歩くと揺れを感じる」、「小さな地震なのに家が揺れる」、「前面道路を大型車が通ると揺れる」…そのような住まいは耐震診断を受けてみたほうが良いかもしれません。
ここまで「耐震基準」という言葉が何度か登場してきましたが、具体的にはどのようなものなのでしょうか?
建築確認日が1981(昭和56)年5月31日までの住宅に適用されていた耐震基準です。旧耐震基準の家に対しては住宅ローンの借り入れを不可としている金融機関も多くなっています。
【旧耐震基準】震度5強程度の地震でも倒壊しない
建築確認日が1981(昭和56)年6月1日以降の住宅に適用されている耐震基準です。建物の着工日や竣工日ではなく、役所などで建築確認が受理された日であることがポイントになります。
【新耐震基準】震度6強〜7程度の地震でも倒壊しない
「耐震」のほかに「免震」や「制振」という言葉を見かけることもありますが、どのような違いがあるのでしょうか。
建物の強さで揺れを受け止め、中にいる人を地震の被害から守る構造で、ほとんどの住宅で採用されている基本的な地震対策です。室内の揺れを小さくする効果はなく、上階に行くほど揺れが大きくなります。揺れによるダメージが蓄積されるため、何度も繰り返し地震があると建物の倒壊につながることもあります。
建物の基礎に免震装置(積層ゴムやダンパー等)を設けることで地盤の揺れを切り離し、建物に伝えない構造です。地震の揺れを大幅に軽減することができ、家具の転倒を防ぐ効果が期待できますが、装置の導入にもメンテナンスにも大きなコストがかかります。
建物の内部に制振装置(おもりやダンパー等)を設けて、地震のエネルギーを吸収する構造です。構造の変形を抑制して建物の損傷を防ぐため、繰り返しの揺れに強いことが特徴です。上階に行くほど揺れを小さくする効果があり、1階の揺れは耐震構造と同程度になります。免震構造に比べると導入コストが安く、工期も短めです。
耐震補強リノベーションでは、場所ごとにどのような工事を行うのでしょうか。ここでは木造住宅について解説していきます。
旧耐震基準の建物の多くには鉄筋が入っていない「無筋基礎」が多くみられます。その場合、鉄筋を追加してコンクリートを打ち増しして既存の基礎と一体化させます。コンクリート車の横付けが難しい場所などでは、アラミド繊維シートという素材を貼り付けて補強する方法もあります。
築年数の古い住宅では水回りの土台や柱が腐食しているケースが多いです。この場合、柱や土台の一部を差し替えたり、添え木をしたりして補強します。
木造住宅は、柱や梁が一体化することで地震の揺れに耐えるのですが、柱と筋交いなどの接合部が腐食していたり、抜けや外れが生じていたりするケースがあります。その場合、接合部をホールダウン金具などでしっかりと固定し、補強して行く必要があります。
開口部が多く壁が少ない建物は、地震の揺れによりゆがみが生じやすいです。この場合、壁を増やすことで、建物の耐震性能を強化することが可能です。室内に耐力壁を追加したり、既存の壁に内壁を追加したりする方法があります。また、壁で塞ぎたくない部分にはブレース(筋交い)を設置して耐震性能を向上することも可能です。
築年数が古い住まいは屋根に瓦が使用されていることが多いです。昔ながらの瓦は大変重量があり、屋根が重い建物は振り子の原理で揺れが大きくなるという特徴があります。そのため、屋根材を軽量なものに葺き替えることで住宅の耐震性能を向上する効果が期待できます。
シロアリ被害や雨漏りなどによる劣化がある場合は、劣化箇所の補強を行います。もちろん、そのような劣化原因の根本的な解決(シロアリの駆除など)も重要です。
日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(木耐協)が発表したデータによると、耐震補強工事にかかった費用の平均額は167万円、中央値は140万円でした(2021年)。また、費用の分布は下記のとおりです。
多くの市区町村で、耐震補強工事を対象とした助成金制度を設けています。補助金上限や要件は自治体ごとに異なるため、お住まいの市区町村のウェブサイトや役所窓口で確認してみましょう。
●例:東京都世田谷区の耐震化支援事業
耐震補強工事の一部として最大100万円の助成が受けられる制度です。おもな要件としては「旧耐震基準」「平屋および2階建て住宅」「木造在来工法あるいはツーバイフォー工法」などがあります。
耐震診断とは、専門家(耐震技術認定者)による住宅の耐震性の調査です。耐震診断の方法は日本建築防災協会が定めており、総合評価の点数に応じて4段階で評価されます。調査にかかる時間はおおよそ2時間ほどです。
総合評価 | 診断 |
---|---|
1.5以上 | 倒壊しない |
1.0〜1.5未満 | 一応倒壊しない |
0.7〜1.0未満 | 倒壊する可能性がある |
0.7未満 | 倒壊する可能性が高い |
総合評価1.0未満の「倒壊する可能性がある」「倒壊する可能性が高い」の場合、大きな地震で被害が生じる可能性があるため耐震補強リノベーションの実施を検討する必要があります。
耐震診断にかかる費用目安は、木造住宅の場合でおおよそ12〜25万円ほど。この費用は、建築図面の照合や目視で実施する「一般診断法」で行った場合です。壁などを解体して行う「精密診断法」ではさらに詳しい診断ができますが、費用は高額になります。木耐協では、一定の精度が確保できるとして一般診断法を推奨しています。
旧耐震基準の建物の耐震診断に対して、各自治体が助成制度を設けています。東京都の自治体で実施している補助制度の一例は下記のとおりです。
助成の内容や要件は自治体ごとに異なるため、該当する市区町村のウェブサイトや役所窓口で確認してみましょう。
耐震補強リノベーションは建物の構造に手を入れる工事となるため、一般の方がDIYで行うのは難しいでしょう。家具を柱に固定し転倒防止を講じたり、食器棚の扉に開放防止器具を設置したりすることで、地震の際の安全性を向上することができます。
耐震診断および耐震補強リノベーションを依頼する業者選び目安として、「日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(木耐協)」に加盟しているかどうかを調べると安心です。木耐協は全国約1,000社の工務店やリフォーム会社などが加盟しており、国土交通省の「住宅リフォーム事業者団体登録制度」の登録団体となっています。
工事費: | 1,000万円 |
間取り: | 1LDK |
専有面積: | 58.16㎡ |
築年月: | 昭和46年3月 |
築49年のマンションをリノベーションした事例です。コロナ禍をきっかけに、ご夫婦が在宅勤務できるよう、キッチンと納戸にワークスペースを設けました。決して新しくない建物ですが、2020年に耐震補強を実施しているため、安心して暮らすことができます。今どきのマンションには見られないようなレトロな外観も気に入ったそうです。
工事費: | 非公開 |
間取り: | 2LDK |
専有面積: | 59.96㎡ |
築年月: | 昭和45年11月 |
駒沢大学駅から徒歩2分という好立地なマンションをリノベーションした事例です。廊下のスペースをなくし、約16.5畳のLDKを広々と使えるようにしました。2017年に耐震補強工事を実施しているため安心です。
工事費: | 非公開 |
間取り: | 2DK |
専有面積: | 49.42㎡ |
築年月: | 昭和45年9月 |
二人暮らしにちょうどよい広さのマンションをリノベーションした事例です。バルコニーに面する居室とダイニングキッチンを透明なパネルドアで間仕切りしているため、閉めていても明るさや視界を遮りません。2014年に耐震補強を実施しているため、長く安心して暮らせます。
グローバルベイスは、物件探しや資金計画からリノベーションまでを一括で行うワンストップサービスをご提供。中古マンションをお探しなら、耐震補強は実施しているのか、今後は実施予定があるのかを調査いたします。無料のセミナーやオンライン相談を実施していますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
戸建ての大規模リノベーションは、耐震工事を実施する絶好の機会です。旧耐震基準の住宅なら、自治体による補助制度も受けられる可能性があるため、まずは耐震診断を受けてみるのがおすすめです。地震大国と呼ばれる日本で長く安心して暮らすために、耐震リノベーションを実施しませんか。